今日から執事


「俺にも分かりかねます。ただ、旦那様の指示でして…」

「どうせろくな事じゃないわ」


はっきりと断言する早稀は渋々といった顔で頷くと
「しょうがないわね」
と呟き、真斗の背を押してドアへと促した。


「…あの」

「着替えるんだから、出て行って。
私の生着替えを見たいなら話は別だけど?」


後ろから押されながら、肩越しに早稀を見ると彼女は口の端を釣り上げて微笑んでいる。

その顔を見た真斗は、やられたっ!と内心悔しがった。






早稀に部屋を追い出された真斗はとりあえず壁にもたれ掛かる。
背中を壁に付けるとひんやりとして気持ちがいい。


それにしても。


と真斗は思う。
この屋敷に来てからまだ一週間も経過していないと言うのに、既に真斗は執事としての責務を真っ当にこなしている。

最初の日は、お茶の時間に紅茶を淹れるのに手間取っていたが、それも次の日にもなれば大分見られる物になった。

早稀から
「案外美味しいわね」
と言われた程に。


真斗はここに来てから、どうやら自分は順応能力が高いことに気が付いた。

よく頑張っているな、と己を誉め讃えてやりたい。



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