Sin
「シン君のお父さんですか」

若い看護師が八百屋に近づいて尋ねた。

「いや、シンの父親はあっちの先生だ」

シン君のお父さん、と呼ばれ、ジャックは顔を上げた。やつれた表情に看護師は目を伏せる。

「先生から伝言が」

八百屋の店主が息を飲む音が聞こえた。ジャックは深呼吸し、小さく頷く。

「最善を尽くしますが、最悪の事態も覚悟してください、と……」

言いにくそうにそう告げ、看護師は一礼して奥へ入っていった。




時間がこんなに長く感じたのは初めてだ。ジャックは深い息をついて再び俯く。

今だ消えぬ手術中のランプに微かに期待を抱いたり、最悪の事態を覚悟したり。

出来る事なら代わってやりたい。子を愛している親なら誰もが抱く願いを、ジャックも心の中でずっと繰り返していた。



どうか、お願いです。

シンを、あの子を助けてください――



ふ、と。手術中のランプが消えた。

ジャックと店主の表情に緊張が走る。

これだけ時間がかかったのだからという一縷の望みと、駄目だったかも知れないという覚悟が交差する中。

静かに、手術室の扉が開いた。


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