Sin
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ソファーに寝そべっていたシンは、本をお腹にのせて呟いた。

「理想は理想、現実は現実」

目元を腕で隠し、一つ息をつく。

ジャックの本棚から勝手に取り出した本を、辞書と記憶を頼りに読んでいた。もっと言葉や読み方を覚えたくて。

そして途中、見つけた言葉。

『人間は生まれながらに、自由と幸せになる権利を持っている』

「理想は、理想」

シンの呟きに苦々しさが混じる。蘇る過去の記憶。

『くず!』
『あいつに近づくな、ばい菌が移るぞ!』

憎らしい笑い声。

『奴隷を連れて来い』
『役立たず』
『お前、移民の分際で俺達に逆らう気か?』
『汚いルージャの生まれのくせに』

取り囲まれ、打たれ、踏まれ、蹴られ、殴られ――

『ヒトハ ウマレナガラニ ジユウヲ……』

「綺麗事ばっかり並べてんじゃねぇ!!」

投げ付けた本が勢いよく壁にぶつかり、花びらが開くようにページがパラパラとめくれて床に落ちる。

「何が“自由”だ! ふざけんな!」

大きな灰色の瞳から涙が溢れた。


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