いばら姫





鳴田空港の第二ターミナル


いきなり
立っていた警官に
パスポートチェックを受けてかなり驚く

後ろ暗い所は無いのに、妙に緊張した



灰谷は『…12月だから
…あそこで少し待ってて』と
ロビーの中の待合室の椅子を指さし
忽然と姿を消した



大きな硝子扉の前のそこには
駅と空港とを結ぶ連絡バスから
降りて来る人々でざわめいていて
誰もが皆、
これからの新しい世界への期待と緊張で
表情が上気している



黒いリュックひとつの俺とは違い
色とりどりのスーツケースが
視線の下の方を通過して行って
スーツケースにも色々種類があるんだなと
変な事に気が付く


英語と日本語の案内が響く中
吉田さんが
何処かからホットコーヒーを
買って来てくれて
一つ俺に、渡してくれた


目の前のナプキン立ての横には
三つ折りにされた、
様々な国の観光パンフレットが
刺さっていて

"ニューヨーク"と書かれた一枚を
手に取ってみた


どれも当たりの良い、
明るい各都市の宣伝文句で
どれもたいてい、聞いた事がある物ばかり


暫くすると周りの席に人が埋まり出して
出張行きのビジネスマン達が
英語で会話をし始める

――まだ日本なのにと少し思ったけれど
もしかしたら人にあまり聞かれたくない
仕事の話でもしているのかなと思った

だんだん外国人の姿が増え始めて来て
…新宿に来たわりには、
夜出歩く事をしていなかったから
こんな数の外国の人会うのは初かもしれない




吉田さんがパンフレットを見ながら
「…へえ、これ知らなかった」と
指で眼鏡を上げた


「……どうしたんですか?」


「 マンハッタンと阿尾森ってさ
同じ緯度なんだと 」








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