百日紅
投網漁と百日紅へ
 五月の連休が終わって、そろそろ冬服の制服が本格的に暑くなった頃、私は学校帰りの地元の駅で中学時代の同級生に出会った。
 卒業して一年しか経ってないのに、名前がなかなか出てこなくて驚いた。まぁ、あんまり仲の良い男子じゃなかったしね。
 彼は確か私よりは頭の良い高校に通っていたと思う。彼の事で一番良く覚えているのは、友達のケイちゃんが彼を評して言った『投網漁』だ。
 彼は顔がなかなかに悪くない。甘く採点すれば上の下ぐらいではないだろうか。厳しく採点するとランクが一つ下がるわけだけれども。
 彼はそんな自分の顔が良くわかっているらしく、求めれば女の子の一人や二人はたやすいと思ったのだろう。ある時期から、やたらと女の子を口説こうとしていた。その方法がまだまだ中学生らしく、おおざっぱでいわゆる「下手な鉄砲も数打ちゃあたる」といったようなものだった。それをケイちゃんは『投網漁』と良い、ケイちゃんと二人で教室の窓際で大いに笑った。
 そんな事しか覚えてなかったのだけれど、彼は私をお茶に誘った。どうやら彼はまだ網を投げているらしい。特に彼に興味はなかったけれど、今度ケイちゃんに会った時に面白い話しでもできるかと思って、のこのこと付いて行くことにした。
「最近できたらしくて、ちょっと良さそうなカフェなんだよ」
 連れて行かれるのはそういう店だそうだ。たかが高校二年生が気取ってカフェとか言ってるのに吹き出しそうになった。やっぱり男子は馬鹿なままだ。
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