大人になれないファーストラバー
なかなか動かない白い雲を追い越しながら、いつものお決まりの場所に向かった。
「失礼しまーす」
お昼を食べるのは決まって保健室。
春頃に咲之助が貧血で倒れてた保険医を助けたのがきっかけで、それ以来お昼はここを自由に使っていいことになった。
ドアを2/3ほど開けて、咲之助が中を覗く。
「那知先生いないの?」
引っ張られてた手はいつの間にか繋ぐようになってて。
その繋いだ手をぶらぶら動かして咲之助の背中に訊ねた。
「…いないっぽい」
「ほんと?」
「うん」
「じゃぁ、アイロンできるね」
「できるな」
今朝は、というかほぼ毎日、寝坊してクセ毛にアイロンをかける余裕がなくて。
お昼に保健室のコンセントを拝借するのが日課になっていた。
そして今日も例外ではなく、先生がいないことを確認するとすぐさまコンセントにアイロンをセットする。
1回だけ見つかったことがあって、その時は「今さら寝癖直してどうすんだよ」って言われて、アイロンを1週間ぐらい没収された。
「今さら寝癖直してどうする」は、なんか妙に2人とも納得。
ああ言えばこうゆう咲之助も、この時は「確かに」って顔をしていた。