大人になれないファーストラバー
"メモリーカード"
ふと浮かんだその言葉に、突然怖くなる。
いくら強そうに見えたって、観月だって人間だ。
メモリーカードなんかじゃなくて、繊細な人間なんだ。
…ダメだ。
観月は弱いあたしをそのまま受け入れてくれるけど、それじゃあたしはいつまでたっても強くなれない。
いつかあたしが記憶をなくしたら、きっと全部観月に頼ることになってしまう。
こんな細い背中に、全部背負わせるなんて。
そんなことできないよ。
観月が「いいよ」って言ってくれても、あたしが辛い。
観月の未来、奪いたくないよ…
考えれば考えるほど観月から離れる方法しか思い浮かばなくて。
行き場のない気持ちがあふれて涙がこぼれた。
もう自分でも止められなくなった涙は、意思とは関係なく次々と頬を伝っていく。
そんな時だった。
自分のすすり泣く声に混じって突然観月に名前を呼ばれた。
「蕾」
はっとして、慌てて観月に背を向ける。
目尻がひりひりするくらい強く涙を拭って、泣いたのがバレないように息を整えた。