大人になれないファーストラバー
タケちゃんは阿宮の落ち着いた態度に少しうろたえつつ「いんや、別に平気だが…」と斜め下に視線を移した。
「ところで」
思い出したように、タケは再び顔を上げる。
怪しむような心配するような(心配そうに見えたのは、おそらく成績がいい阿宮までもが何かやらかしたのではないかと思ったからだと思う。)、そんな何とも言えないで表情で阿宮に問いかけた。
「なんで阿宮までここにおるんだ」
再びされたその質問に、静まりつつあった鼓動がまた騒ぎ出す。
阿宮の答えによっては何とかなるかもしれないが。
そう思いながら、あたしは床に座り込んだまま祈るような気持ちで阿宮を見上げた。
「朝勉です。名取が数学教えて欲しいって言うんで」
あたかもそれが真実かのように、阿宮は動揺を欠片も見せないで平然と言う。
「ほお、こんな朝早くから」
それに対してタケちゃんはまだ少し疑いの目を向けた。
けれど、
「はい。ダメだったんならすぐに帰りますけど。」
と、阿宮の放った言葉は朝焼けの鮮やかな赤に輝きそうなほど凛としていて。
タケちゃんはもうそれ以上何も言えないようだった。