大人になれないファーストラバー
「俺部活あるからそろそろ行かなきゃなんだけど」
言って、しびれを切らして立ち上がる。
さっき裾を踏んずけたせいで下がりすぎたズボンを直し、そもそもの目的である便所に戻ろうと、ハヤマの横を通りすぎようとした瞬間。
「…好きだ」
エコーもかかっていない、華やかな響きもない。
余韻もまるで残さない、たった一瞬だけの重い囁き。
ハヤマの口から、そんな短い一言が発せられた。
俺が思わず歩みを止めると。
正座した膝の上で拳を握り、うつ向きながらハヤマは続けた。
「ずっと前から、好きだった」
すると、震えていたハヤマの肩はぴたりと止まる。
今度はなんだと思いながら、恐る恐る顔を覗き込もうと身を屈めると。
ハヤマの手にいきなり手首を捕まれた。
驚いて一歩後ずさると、ハヤマは立ち上がり。
俺より高いその長身で正面から迫ってくる。
そして。
一歩、また一歩と後ろに下がるうちに、便所の前にたどり着いた。