この心臓が錆びるまで


 裏庭へと繋がる道は、体育館の扉の一ヶ所だけで、あまり生徒達には知られていない。知っていても、不気味がって誰も近付かないのだ。

 午前中は日が当たらずジメジメしているものの、午後からは日が当たりぽかぽかと気持ちが良い。この裏庭は、私の秘密のサボり場となっていた。

  私が生まれるよりも少し前にこの学校を卒業して行った先輩方が、卒業記念にこの裏庭を設けたのだそうだ。

 私は傷んだベンチへと寝そべった。

 太陽の光を吸い込んだベンチはひどく寝心地がよく、降り注ぐ日差しが眠気を誘う。一面を囲む新緑と真ん中に開ける深い深い蒼が、自分に迫ってくるような錯覚をおこす。

 いまなら空を捕まえることができるような気がして手を伸ばしかけたその時、突然視界が黒い影に覆われた。

 空が消えたと驚いたのも一瞬だけだった。


「授業、出ないの?」


 太陽のような暖かさはないけれど、降り注いだそれは月のように優しかった。


< 5 / 60 >

この作品をシェア

pagetop