砂漠の月歌 〜dream story〜
「で、王子、何がそんなに不愉快なんだ?」
「いや不愉快なのはお前だ。
……俺の誕生日というだけで、
こんなに街が騒がしいのが不機嫌の理由だ。
これでは散歩にもいけない」
まるで玩具を取り上げられた子供のような膨れっ面をする王子。
今度は執事が溜め息をつく番だ。
「あのな…それ以前にお前はあんまり
外に出歩いちゃいけねーんだぞ…?
この前も街中大騒ぎだったんだぜ。
王子を路地裏で見掛けたとか、
何か豆腐屋探してたとか、そういうのが…」
「こんな身分だから食った事がなくてな。
ほんの好奇心だ」
それで何故豆腐を捜し求めたのか、執事は敢えて聞かなかった。
……確かに、王子は人目につく顔立ちをしていた。男にしては肌は白く、何より生まれながらにして髪色が緋色そのものだ。
「しかし何故バレたんだろうな…
ちゃんと変装したんだが」
ちなみに変装して出歩いたその日の王子の変装は、帽子を被っただけだ。
「……とにかく今日は出歩くんじゃねーぞ?
日が暮れたと同時に舞踏会が始まるからよ」
あまり乗り気でない王子を宥めるように言う。