ストレイ・ハーツ〜夢みる王子のねがいごと〜
ソラはわたしの、幼馴染みなんかじゃない。
──大切な、家族。
『うらら、おいで。紹介しよう。ほら、隠れてないで出ておいで』
十年前のその日、新しい家族ができた。
まだ幼かったわたしに、兄弟ができた。
パパの背中からおそるおそる顔を覗かせたのは、真っ黒い毛色のミニチュア・シュナウザー。
小さくて愛らしい仔犬。
ふわふわの毛がお人形みたいにかわいくて、小さな体がか弱く震えていて。
わたしが守ってあげなくちゃ。
そう思ったんだ。
『パパ、今日からこのコ、一緒に暮らすの?』
『そうだよ、うららにちゃんと、お世話できるかい?』
『うん、うん…! がんばる、ちゃんとする! ずっとずっと、一緒に居る…!』
幼いながらに誓った。
疑わずに、迷わずに。
『パパ、わたしが名前、つけてもいい?』
『…いいよ。どんな名前だい?』
『──ソラ!』
──それからずっと、一緒だった。
どんな時も一緒だった。
パパやママが居なくなっても、おばあちゃんが、居なくなっても…ソラが居てくれた。
ずっと傍に、居てくれた。
…だけどあの日…ソラまで、わたしの傍から居なくなってしまった。
おばあちゃんが亡くなった、一ヶ月後だった。
老衰と病気で、ソラの体はもうほとんど動かなくて…必死に看病したけれど、いかないでと何度も叫んだけれど。
わたしにソラを救うことはできなかった。
わたしを置いて、みんないってしまった…いなくなってしまった。
かなしくて、つらくて、くるしくて…
ひとりじゃ生きてゆけなかった。