ストレイ・ハーツ〜夢みる王子のねがいごと〜


両親は大切だし今の生活を支えてくれているけれど、それはリオが自分で選んだ〝必要最低限〟のものだ。
その他の誰かは、リオの中にいない。

せいぜい教師や医者や親戚。
それから時折読み返す記録ノートや日記のおぼろげな認識だけ。
アオやレオも、その内のひとりだった。

それ以外のものなんて、ずっと在り続けてほしいダレかなんて、リオにはいない。
それはリオが自分でそう選んで、望んで、自ら切り捨ててきたものなのに。

なぜだろう、いま。それが寂しいと感じた。


──ああ、でも。そうだ、ひとつだけ。うーちゃんの言う、身体に染み込んだもの。おれにもひとつだけあったんだ。


「そんなに脳みそが欲しいなら、おれが作ってあげる」

『……?』


「うーちゃん、ちょっとひとりで待ってられる?」


リオが隣りのうららの顔を覗き込む。
うららはぶ厚いレンズの向こうで目を丸くし、驚きの表情のまま反射的に頷いた。

それを確認してからそっと繋いでいた手を離し、リオは足早に家へと向かった。
 

──ひとつだけ。それは記憶を頼らずとも、おれの中にずっと在り続けたもの。おれにも、あったんだ。失くさないでいられるものが。

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