月と太陽の事件簿8/微熱混じりの推理
坂の上の家
夏の暑いさかりに坂道を登るもんじゃない。

今年の夏は湿気の海を泳ぐような日が続いているからなおさらだ。

8月の夕暮れ時、あたしはその坂道をヒイヒイ言いながら登った。

そこから30mほど歩くとその家は見えてくる。

「相変わらずデカい家だこと」

あたしはつぶやいた。

年季の入った板塀はどこまでも続いていた。

塀の向こうには杉や松、椿の大木が無数に顔をのぞかせ、さながら森や林といった光景を作っている。

純和風の門構えはその大きさとあいまって威圧的な印象を与え、何十回と訪れていてもそれは変わらない。

「月見」とある表札下のインタホンを押して中に入る。

玄関までは天然石の踏み石を敷いた道が続くのだが、これがまた長い。

そして周囲は外からも見える雑木林に囲まれているから、ここ本当に都内かしらと錯覚に陥ることがある。

道の途中で60歳ぐらいの女性が笑顔であたしを出迎えた。

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