月と太陽の事件簿8/微熱混じりの推理
達郎が西本の体格やマンションの管理人&ガードマン云々について訊いてきたのは自説を裏付けるためだったのだ。

「犯人は別荘に西本の死体を運び、自殺したかのように見せかけるため、西本が書いた遺書を置きそこに判を押した」

なるほどハンコなら筆跡を真似る必要はない。

遺書を西本のものだと印象づけることもできる。

犯人は西本が己に遺書を用意するという、身勝手で残酷なやり方を逆に利用したのだ。

なにしろ遺書自体は西本が書いたものなのだ。

自殺を証明するものとして、これ以上のものはあるまい。

でも達郎はそれ故に疑問を感じた。

遺書の文面は万年筆で書いたものだったのに、なぜ署名は手書きではなくハンコだったのか?

「つまり遺書は遺書でなかったんだ」

そう考えたら一気に事件の向こう側が見えてきたと達郎は語った。

自分ではなく他人のために書いた遺書か。

相変わらず突拍子もないことを考える。

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