君が好き
 華蓮は川を眺め、穏やかに笑った。
「君が好きって何度も繰り返して、あれはパパに捧げた歌ね」
華蓮の言葉に碧は美雨が歌った歌を思い返した。しかし、華蓮が言うような歌は思い浮かばなかった。
『じゃあ、お互いに捧げる歌を作りましょう』
 あの時の美雨の言葉が頭を過ぎった。
「華蓮、歌ってくれないか」
声を震わす碧の言葉に、華蓮は笑顔で応えた。
 華蓮は碧に傘を手渡すと、ギターを取り出た。


君が好き

シャボン玉を手に乗せるような
柔らかな仕草で

耳元に唱える愛の言葉

怯えるように
硬く閉ざした 私の心は

たちまち貴方のものになった


君が好き

言葉は想いを伝えるために
伝わらなければ無いのと同じと

届けてくれた貴方の言葉

消え逝くように
鼓動を刻む 私の命で

私も貴方に届けたい


君が好き

貴方が瞳に映るから
どんな景色も輝いた

貴方の声が届くから
どんな音色も素敵な旋律になったの


君が好き

心からあなたに伝えたい
確かな絆を届けたい

心はずっと離れないよ


碧が目を閉じると、涙が溢れた。
(僕たち、これからも一緒にいられるよね)
碧が心の中で問いかけた。
雲間から優しく光が射した。
(うん)
碧が空を見上げると、美雨の声が聞こえた気がした。
碧は傘をたたむと、穏やかに微笑んだ。
「パパ」
手を伸ばす華蓮の手を碧はしっかりと繋いだ。
 碧は華蓮の温もりから、確かな絆を感じた。
「ありがとう」
「ん?」
「なんでもないよ」
二人はしっかりと手を繋ぎ、川辺を歩いていった。
 ススキの揺れる音、川のせせらぎが心に響いた。
 二人はもう一人分の温もりを確かに感じた。

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