危険な誘惑にくちづけを
 

「それは、言えない」

「薫ちゃん」

「……例え、春陽に、だとしても俺からは言えない」

 わたしの質問に、薫ちゃんはそう言って、また白い壁を睨んだ。

 でも、それでは、何の解決にはならなくて。

 わたしが、もう一度声をかけようとしたとき。

 信じられない人が、談話室に入って来て言った。

「あんまり追求したら、どっちも可愛そうかもよ、春陽ちゃん」

 ……え?

 と、思って振りかえったもその先には……

「……佐倉君!
 なんで、あなたが、こんなところまで!」

 驚いているわたしに、佐倉君は肩をすくめて言った。

「オイラ、こいつに首根っこ掴まれて、ここまでひきずって来られたんだよ」

「なんで、薫ちゃん!」

 わたしの言葉に、薫ちゃんは、のろのろと答えた。

「……だって、変なところで放したら、春陽達のところへ飛んで帰りそうな勢いだったから……」

「最初、こいつ超ウザいかなって思ったけど、実は良い奴だったよ」

 佐倉君は、にこにこと、軽く笑った。

「……だって、おかげで、春陽の彼氏の事情ってヤツが、良く判ったからね」

 そう言う、佐倉君の顔には、今までの切羽詰まったような。

 思いつめた様子はなかった。

 紫音に会う前の、のんびりとした。

 そして、自信たっぷりの顔をして、ほほ笑んだ。

「春陽ちゃん。
 色々ヘンなコトをして、ごめんね?
 もう、二度としないし、預かっているモノは、全部消させてもらうよ。
 だって……」

 そう、言って、佐倉君は、ちらりと一瞬だけと人の悪い顔をして、笑った。

「だって、これは、完全に。
 オイラの勝ち、だもんね?」
 




 
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