危険な誘惑にくちづけを
Ⅲ章

離れゆくモノ

 


「……春陽が壊れた」



 水島に、そう、きっぱり言われて。

 わたしは、大きくため息をついた。

「……そうかもしんない」

 本当は、違う! と言うことを期待してたらしい。

 水島が、びっくりした顔で、わたしを見た。

「……アンタ、本当に大丈夫?」

「ダメかもしんない~~」

 昨日と一転。

 今日は一日、不幸のどん底だった。

 授業も、実習も、今日の分は終わったのに。

 どうしても、自分の部屋に帰る気がしなくて。

 今は、苦手な絵の自主補習をしてた。


 ……あれから、結局。

 紫音は、わたしに会わずに、フランスへ、行ってしまった。

 紫音は、昨日の夜、ずっと外に出てて。

 わたしが起きて、待っている間は帰って来なかった。

 そして、朝。

 短い眠りから、目が覚めてみると。



 ……紫音の荷物が、なくなっていたんだ。

 小さな、スーツケース一つだけだったけれど。

 紫音の荷物がなくなってる……ってわかった瞬間。

 また、長い間会えない事が決定し。

 しかも、今回は。

 別れのあいさつもきちんとしないうちに、出て行った事が、すごくショックだった。

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