恋人は専属執事様Ⅰ
「すごく美味しかったです。藤臣さん、ありがとうございます」
私がお礼を言ってペコリと頭を下げると、藤臣さんは
「お嬢様、一介の使用人にそのようなことをなさらないでください」
と困った顔になってしまった。
「でも、本当に美味しかったんですよ?それに、用意してくださった藤臣さんにお礼を言うのは当たり前だと思うんです」
そう言うと、藤臣さんは懐かしそうに優しい笑顔で、私を見つめながら話し始めた。

「本当に淑乃お嬢様は若旦那様によく似ていらっしゃいますね。若旦那様…聡様もわたくしども使用人一人一人にとてもお優しくていらっしゃいました。誠に残念ながら、聡様は不慮の事故でお亡くなりになりましたが、淑乃お嬢様がご無事で何よりでございます。淑乃お嬢様にお仕えできることを、わたくしは心から光栄に存じます」

藤臣さんはそう言って微笑むと、朝食を下げて一礼すると部屋を出て行った。
若旦那様って誰?って思ったけど、聡はパパの名前だから、きっとパパのことよね?
パパは22の時に私を身籠もってた18のママと駆け落ちしたから…藤臣さんっていくつなの?
どう見ても30そこそこにしか見えないんだけど…
子供の頃から使用人として、このお屋敷で働いていたのかなぁ?
労働基準法的にそれってアリなの?

ウンウンと悩んでたら、ドアをノックする音がした。
「はい、どうぞ」
私の返事から一拍置いて
「失礼いたします」
と言う声と共にドアが開いて、一礼した藤臣さんが入って来た。

「淑乃お嬢様、本日のご予定をご説明させていただきます」
そう言って藤臣さんは、持っている本革の立派なスケジュール帳をロクに見もせず、スラスラと今日の予定を説明してくれた。
午前中は私が着るお洋服の採寸、午後はテーブルマナーの練習――ってことみたい。
成り行きでお嬢様になっちゃったけど、お嬢様って実は大変かも…
私なんかで大丈夫なのかなぁ?
全然自信がないんですけど……
< 2 / 70 >

この作品をシェア

pagetop