恋人は専属執事様Ⅰ
【side:二階堂】

初代氷雪の君も第二の氷雪の君最有力候補も、どうやら彼女の魅力に熱くなってしまうようですわ。
女のわたくしですら彼女を可愛らしいと思うのですから、男の方にはさぞかしなのでしょう。
当のご本人に全く自覚がないことが余計に面白くなっておりまして、わたくしを楽しませてくださいますの。

『試用期間を設けて、鷹護さん・河野さん・宝井さん・秋津さんに日替わりで仕えてもらえばよろしいですわ』
わたくしの提案に受話器の向こう側から
『えっ?そんなに沢山の人にお願いするのはちょっと…』
なんて気弱なことを仰るご本人に
『松本さんのお屋敷にも沢山の使用人がおりますでしょう?』
さり気なく留めを刺して差し上げても
『それはそうですけど…学園で何人もの執事候補生に仕えてもらってる人なんていませんよね?』
とまだ煮え切らないご様子。
『あれだけの執事候補生が立候補したこと自体、前代未聞ですもの。4名に絞っただけでもよろしいことだと思いますわ。それに、松本さんから仰れないのでしたら、わたくしが代わりにお伝えしてもよろしくてよ?』
わたくしが背中をもう一押ししましたら
『まっ…待ってください!藤臣さんにも相談に乗ってもらいます…学園のOBだから、アドバイスをもらえるかも知れないし…』
だなんて無自覚で残酷なお返事が。
それは流石に藤臣さんもお気の毒と思ったわたくしは
『それはルール違反ですわ!ご自分でお決めにならないと意味がありませんわ。学園の規則ですのよ?』
と一芝居打って差し上げて、漸くわたくしの提案に同意していただけましたの。

本当に…世間知らずでお人好しなところなんて特に、学園一の深窓の令嬢ですわ。
そこが松本さんの可愛らしいところでいらっしゃるのですけれど。
わたくしの思惑の斜め上を行く松本さんは、4名の執事候補生宛てにお手紙を書かれたのでした。
結局、封蝋印を藤臣さんに用意させたことで、火に油を注ぐ結果になられたご様子。
初代氷雪の君が第二の氷雪の君候補者たちを牽制すべく、終業前にはお教室のドアの前で待つ姿も日常の光景になりましたの。
藤臣さんにはお気の毒ですけれど、わたくしはこんな日常を楽しませていただいておりますの。ふふ…
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