恋人は専属執事様Ⅰ
部屋に戻ると直ぐに藤臣さんがやって来た。
「アフタヌーンティーでございます」
銀色の立派なワゴンに載せられたティーセットを、テーブルの上に綺麗に並べていく。
何度見ても、お菓子が載った銀色の三段のトレーに感激してしまう。
友達と執事喫茶に行った時に見たけど、素材も作りも載っている物も全然違う!

「本日は胡桃のスコーンとバナナマフィンとブラウニーでございます。紅茶はFortnum&Masonのアールグレイをご用意いたしました」
そう言って藤臣さんは、私の背後ではなく斜め前に立った。
あれ?いつもは背後なのに何で?
キョトンとした顔の私に、藤臣さんは
「アフタヌーンティーのお供は出来ませんが、こうしてお嬢様と向き合うことで、お話しをすることは出来ますので」
と言って微笑んだ。
お昼ご飯の時に私が言ったことを覚えていてくれたんだ!
そう思ったら嬉しくなって、ただでさえ美味しいおやつが更に美味しく感じた。

「それでは失礼いたします」
藤臣さんがアフタヌーンティーを片付けて部屋を出て行った。
慣れない環境と今日は緊張したり忙しかったからか、アフタヌーンティーでお腹も満たされた私は、いつの間にかソファで眠ってしまった。

目が覚めると何故かベッドに横たわっていた。
ソファで寝ちゃった筈なのに何で?
上半身を起こして、サイドテーブルに用意されているグラスに冷水を注いで一気に飲み干した。
空いたグラスをサイドテーブルに戻した弾みで、ベルがチリンチリンと澄んだ音を立てながら床に落ちた。
「ヤバ…」
慌てて床からそっとベルを拾い上げたけど、時既に遅し。
ドアをノックする音と藤臣さんの
「お呼びでしょうか、お嬢様」
と言う声がした。
ベルを落としましたと言っても失礼だよね?
「どうぞ」
と言って、私は藤臣さんを部屋に招き入れた。
さて、何と言おう?と考えあぐねていると
「お夕食の準備が整いましたが、直ぐにお召し上がりになりますか?」
と藤臣さんが言ってくれた。
そう言えばお腹が空いたかも…
「はい、お願いします」
こんなに食べてばっかりで、太っちゃわないかなぁ?
一抹の不安が過ぎったけど、美味しいご飯の誘惑に敵う筈ないよね。

お腹いっぱい美味しいご飯を食べて、私はグッスリと深い眠りに就いた。
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