駄菓子屋松金 ─マツガネ─




数日後の朝、駄菓子屋松金には、珍しい客が訪れた。


「よ!」

「………何しに来たんだよ」


爽やかに手を振りながら店の前に立っているのは、今最も会いたくない愛護のトップ・潮田勇一。

嫌そうに眉を寄せる常磐に苦笑しながら、彼は手に持ったビニール袋を差し出した。


「この前は世話になったからな。そのお礼と言っちゃ何だが、持ってきたからさ。つまらないもんだが、食べてくれよ」


袋を受け取り、中を覗くと、其処には“南国のフルーツタルト”と書かれたお洒落な箱が入っていた。

最近注目されている、若い女性に人気のスイーツだ。


「…何か買ってく?」

「駄菓子か〜! 懐かしいな。うん、酢昆布貰うかな」

「毎度」


潮田はポケットから小銭を取り出すと、酢昆布を受け取って笑う。

年齢は知らないが、トップの座に就いている割りには若い男だと思った。


「また遊びに来いよ★」

「絶対行かねー」


そうして、颯爽と潮田は帰っていった。

その背中を見送りながら、手元の袋に視線を落とし、貸しを作るのは悪くないか、と呟く。


「カノヤぁ、茶にしようぜ」

「早ッ! 開店したばっかじゃないですか!」


案の定カノヤからは真面目な答えが返ってきて、常磐は苦笑する。


たまには、こんなのも良いな、なんて、柄にもなく思うのだった。





×巻き込まれる者× 完


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