ラビリンスの回廊
そしてルクトのほうを向くと、玲奈に聞こえないようにという配慮からか、声を抑えて言った。
「跳ねっ返りに対しては、無駄な心配だったな」
「ま、ね。アレを見たときには正直、彼女が崩れるの覚悟したんだけど」
「なんせ自分に危険が迫っても『殺すことない』ってくってかかるような女だ。死体に、それもあんな状態のやつに遭遇したら、と考えるのは至極――」
「おい。聞こえてんだけど。内緒話なら聞こえないようにやれよ」
刺々しい玲奈に、ルクトはニコッと笑顔を返す。
「えー聞こえるように言ってるんだもん」
「なにが『だもん』だ。気色悪い」
ケッと吐き捨てるように言うだけでは足りぬとばかりに、玲奈は自身の両腕を抱えるようにしてこする。
ルクトはその様子に目を細めながら、静かに言った。
「堪えて、えらかったね」
不覚にも、玲奈の目から雫が落ちそうになった。
それくらいルクトの声は優しくて、玲奈の揺れた心を見通したうえで、踏ん張った彼女を享受しているようだったから。
「……まだ、だ」
自分はまだ、堪えきれていない。
わかってる、という風に、ルクトが頷く。
玲奈はそれ以上なにも言わず、魔峰を踏みしめた。