黄龍

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硬質な音が一定の速度で響く。


黒色の大理石の床を踏む音。


高く細いヒールでそれを鳴らす女。


鋭利なつま先の深紅のハイヒール。

同じ色のくるぶしまであるドレスは、体によく馴染み、均整のとれた美しいボディラインをくっきりと作り出している。


靴音がなる度に、太ももまで入ったスリットから惜し気もなく、しなやかな脚が繰り出される。


女は黙々と歩みを進める。


大理石が作り出す廊下は細く長く、緩やかな傾斜を螺旋状に描く。

照明はなく、剥き出しのコンクリートのような壁の所々に
くり抜かれたような窓からの採光のみが女の歩く先を照らす。
外は昼間とは言え雨。
採光は十分とは言えない明るさだった。


窓の付近を通り過ぎた時、にわかに女の顔がほの暗く照らし出された。


深紅の唇。
誇張するようにはっきりと黒く縁取られた目。
目尻に入れられた朱色が、整った顔に鋭さを添えている。


歩く度に頭頂で一つに結い上げられた深い紫色の髪が揺れる。


束ねられてもなお腰元まである髪は、女が一歩進む度に別の意志をもっているかのように艶やかになびく。
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