黄龍
三章:追跡者
「そろそろ街に出てみる?」


唐突に久遠が切り出した。


紗里が路地裏に来てから数週間が経過していた。


その間、紗里はずっと病院にいて一度も街へ出ることはなかった。


四神護に見つからないようにするため。


街の人間を怖がらせないため。


本来紗里がいるべき世界へ戻るために
外へ手がかりを探しに行きたかったが、漂流者である証の鮮やかな赤色に変わった瞳は
目立ちすぎてそれが叶わなかった。


本当に戻りたいのか思い悩む紗里の迷いも、街へ行こうとする足を鈍らせていた理由の一つではあるが
久遠達はそれに気が付いていないようだった。



「出てみるって……私、見つかっちゃいけないんじゃないの?」


紗里は驚いて脱脂綿の詰められた瓶にエタノールを注ぐ手を止めた。


ここ最近、紗里は患者がいない時は病院内のちょっとした雑用や、家事を手伝うようになっていた。


心の内を吐露したあの夜以降、紗里はそれまでよりも露暴と一緒にいるようになった。
露暴はこの病院内の雑用のほとんどを担っているため、一緒にいようとすれば必然、それを手伝う形となる。

< 112 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop