黄龍

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病院の人だかりが消えてほとぼりが冷めた頃、
久遠は再び外へ出た。

待合室では誰にも会わなかった。

鴉と露暴は施術にあたっているのだろう。診察室の扉は閉められて
様子が分からなかった。


久遠はポケットにしまってあったメモ用紙を取り出す。
頼まれていた買い物の内容をもう一度確認した。
細いが力強い、癖のある鴉の文字が並ぶ。

今、鴉のために出来ることはこれくらいしか思いつかなかった。


雲に覆われて見えない太陽は傾き、夕方の薄暗闇が広がりつつあった。

人々は夜になると警戒をして外に出たがらない。
路地裏にある商店もそれに合わせて暗くなったら閉まってしまう。
久遠は足早に店へ向かった。


紗里には病院にいるように言ってきた。
暗くなればキメラが出現する確率が高くなるためだ。
被害を見れば、キメラという獣がどれほど獰猛な存在かということは
嫌でもわかる。
仮に出くわしてしまったら、自分一人だけならまだしも
紗里まで守り通せる自信はなかった。


短時間で効率よく買い物ができるようルートを考え、久遠は街中を行く。
その途中で幾人かの街の人間とすれ違った。
気さくに声をかけていく者、
異物を見るように蔑んだ目で見てくる者、様々だった。


路地裏に来て5年。
力を持って人々を助けまわっても、まだわだかまりは残る。
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