黄龍

男は待っていた。


四神護の来訪を。


黒色の冷たい石造りの床の上にひざまづきながら、
ひたすらに頭をたれて待ち続けていた。


自らの呼吸さえ響くような沈黙の中、時折斜め後方から
カチカチと金属がぶつかる音がする。


男が従えてきた、もう一人のむき身の刀が床に当たる音だ。


長時間一つの体勢を保つのに耐えられなくなったのか、
恐怖に震えているのか。


振り返るわけにもいかず、その真意は男にははかれない。


自分も恐怖に震えそうになる体を懸命に抑えるので精一杯だった。


男は唇を噛み締める。



−−こんなはずではなかった。



本来ならば自分の隣には
捕らえた漂流者がいるはずだった。


それを四神護へ差し出して、手柄として黄龍の支配側へと召し上げられ、
仲間と共に豊かな生活を手に入れるはずだった。


それなのに。



男の脳裏に煙幕の間から覗く、銀髪の少年の姿が浮かぶ。


鮮やかな深紅の瞳。
獲物を連れ去る小柄な背中。



−−漂流者めが。



男の目に怒りがこもり、微かに拳が震えた。
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