トドケモノ 【短】





「…な…んで…?」



思いがけない出来事に頭はまったくついてこない。


そのくせ、彼を見た瞬間、あたしの涙腺は決壊する。







彼は、そんな状態のあたしを見つめ、微笑むと、ジーンズのポケットから箱をとりだした。




よく、映画なんかででてくる可愛い小さなケース。





『…田宮直から冨永心晴さんにお届け物です。



…俺を、受け取ってください。』





流れる涙はその一言で感涙のものに変わる。



「…っ!!」



彼が開けたケースには、金色にひかるペアリング。




彼は、あたしの左手を手に取り、薬指にそれを通した。


これは、夢ですか…?



でも、薬指に感じるその冷たさが現実だと証明し、あたしの涙をさらに煽る。




『…俺にも。』



彼はそう言ってもう一方の指輪をあたしに握らせた。


なんで?
あたしでいいの?

直の彼女で、いていいの?
ボロボロ涙が溢れて視界が歪む。


わかんない。
わかんないけど、


……直といっしょにいたいよ…。






…あたしは震える手で指輪を、彼の薬指にはめた。







ギュッ!



その瞬間、勢いよく引き寄せられ抱き締められる。


久しぶりの彼の体温が冷えきったあたしの心に染み渡っていく。





『…これでお前は俺のモノ。


俺はお前のモノだから。』






あたしの耳元でそう囁く彼の首に、…あたしはそっと腕をまわした。








END


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