星屑
そして笑いながら、彼はあたしに唇を触れさせた。


どうやらこの人にとって、キスはその範疇にないようだが。


好きだと言ってみたり、愛なんて信じてないと言ってみたり、なのに優しくてよくわからない男。



「ヒロトと犬猿の仲って聞いたけど。」


「…昔のこと、聞いたの?」


「ちょっとだけ。」


そっか、と勇介は軽く言う。



「まぁあの頃なんて、よくある可愛い反抗期って感じじゃない?」


“よくある可愛い反抗期”で、手に負えないほど荒れてた、とは言われないだろうに。


でも、勇介があまりにも笑い話のように言うから、真剣に捉えるのも馬鹿らしくなる。



「喧嘩とか、もうしないで。」


了解、と勇介はまた笑う。


無邪気な笑顔で、そこに真剣さなんて欠片もないけど。



「何かあたし、こんなことしてたらアンタの周りの女にまた睨まれそうだね。」


「でも俺は奈々が良い。」


今度は駄々っ子のような台詞だった。


もう、何を言っても無駄な気がして、あたしは長くため息を吐き出してしまう。



「とりあえず、勇介もシャワー浴びてきてよ。」


「俺は大丈夫だって。」


「でも、あたしの所為で風邪引かれたりしたら困んの!」


「じゃあ奈々が看病してくれれば良いじゃん。」


馬鹿なこと言うな、と言って、無理やり彼を浴室に連れて行き、そこに押し込めた。


そのまま崩れるように、疲弊した体をベッドに投げる。

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