星屑
途中、ママがトイレのために席を立ったので、あたしは思い切って聞いてみた。



「うちのママ、世話が大変でしょ?」


「そんなことないよ。
静香さんには、いつも頼りっぱなしで。」


「先生、もっとビシッと怒ってやれば良いんだよ。」


ママが好きになった人なら、あたしが嫌いになる理由もない。



「奈々ちゃんも、“先生”なんて呼ばないでよ。
僕はそう呼ばれるほどすごくはないから。」


「じゃあ、“溝端さん”とかで良いの?」


「そうだね、それの方が嬉しいよ。」


この人は、決して偉ぶったり、あたしみたいな子供にも、横柄な態度なんて取らなかった。


困るといつも頭を掻いて、きっと病院でもいつもどの患者さんにもこんな風なのだろう。



「僕ね、奈々ちゃんに嫌われるのかと思ってたんだ。」


「…どうして?」


「だって、お母さんを取っちゃったみたいじゃない?
静香さんは奈々ちゃんのことが大好きで大切にしてるって知ってたし、だからこういうのが嬉しくて。」


「うちは自由恋愛主義だから。
でもあたしこそ、溝端さんが良い人で良かったと思ってるよ。」


言ってやると、彼はふにゃっと笑った。


とても30過ぎの人の笑顔じゃなくて、なのにあたしまでつられるように笑ってしまう。



「だから、ママのことよろしくね。」


ママは、例え相手がどんな人だろうと、結婚だけはしない。


きっとこの人もそれをわかっているんだろうし、それでもあたしの存在も大切に思ってくれているのだろう。


勇介からのメールの返信はなかったが、でも気にしなかった。

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