序章
中2の冬。
 冬 休みが終わって初めての登校日。
 連日、気温が10度近くまで下がってて今日も嫌々こたつから出てきた。
 顔をゆがめながら足早に歩いていると、
 「夏希!」
 校門の近くで、ふと、呼び止められた。
 私は佐藤夏希(さとう なつき)。公立の中学校に通う15歳。
「沙耶!」
 彼女は田中沙耶(たなか さや)。小学校1年生の時からの同級生で、今までで一度もクラスを離れたことがない。大切な親友だよ。
 「何その顔、ブスだよ」
 そう言う彼女はおどけていて、ペロっと舌を出して笑う。
 「酷っ。…だって寒いじゃん!日本に冬という季節がある意味が分かんないー」
 私が頬を膨らませて言うと、
 「あんたはこたつから出られない猫か」
 って突っ込まれた。


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 学校に着いてからすぐに始まった始業式。
 ありえないぐらい長く続くパンダの話。
 うちの学校の校長は林田敏男(はやしだ としお)って言うんだけど、ところどころハゲタ髪がなんとなくパンダの模様に見えることから、いつの間にかパンダって呼ばれるよ
うになった。
最近は少なくなってきたけど、新入生が入学して数カ月の間は、あまりの話の長さに貧
血を起こす人が何人も出て少し騒ぎになったくらい。  
 そんな辛い中でも、あたしはある一点だけを見つめていた。
 3年2組、野球部キャプテンの高橋健吾(たかはし けんご)先輩。
 最初はただの憧れだったんだ。
 中1の時、沙耶と一緒に家に帰ろうとした時、校庭で声を出して頑張っていた先輩を見
て、野球部のマネージャーになりたくなった。
 家に帰ると、その日のうちに親にマネージャーをやりたい、ってことを伝えた。
 すると、いつもは静かな腕組をしたお父さんが、口を開いた。
 「夏希、お前はそれでいいのか?」
 「うん」
 「お前は自分で動く方が好きじゃなかったかのか?」
 「好きだよ?でも、野球も前から興味はあったし、好きだもん」
 「6年間のお前の努力は、そんな簡単に捨てられるものなのか?」
 まあ、確かに、小学1年生から6年間続けたバスケを中学でもやろうとは思ってたけ 
ど…。
   
 



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