恋時雨~恋、ときどき、涙~
振り向くと、健ちゃんがズボンのポケットに右手を突っ込んだ。


取り出したのは、手のひらサイズの紙袋だった。


ゾウ、ブタ、キリン。


動物たちのイラストがたくさんついていた。


わたしが首を傾げると、健ちゃんはそれをわたしの手のひらに置いた。


「やる」


わたしは、健ちゃんを見つめた。


「気に入るか、わかんないけど」


紙袋を開けてみると、小さな白いマスコットが付いたスマホストラップが出てきた。


わたしはわくわくしながら、それを夕陽にかざした。


白い、子うさぎのストラップ。


潮風に揺れる子うさぎは、元気に飛び跳ねているように動いている。


「真央、うさぎが好きなんだろ」


わたしは、うれしくてたまらなかった。


急いで、ポシェットからメモ帳とボールペンを取り出した。


【ありがとう】


メモ帳を見せると、健ちゃんは照れくさそうに笑った。


「ありがとうなら、手話でも分かるんけ」


わたしが〈あ〉と口を開けると、健ちゃんは大きな口で笑った。




< 130 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop