恋時雨~恋、ときどき、涙~
健ちゃんを好きだと気付いたとき、こんなふうに付き合えるとは、これっぽっちも思っていなかった。


諦めることから、この恋は始まった。


でも、こうして、隣には健ちゃんがいる。


あの時から、わたしは、いくつかの限界を越えてきた。


言葉の壁も、生活も。


わたしは溢れる涙をとめることができなかった。


霞む目の前で、健ちゃんは優しい手話をした。


「この先もずっと、おれには真央が必要だんけ。それは、何も変わらねんけな」


わたしは頷いた。


〈わたしも、同じ〉


そっか、と健ちゃんは照れくさそうにはにかんだ。


そして、窓の外に視線を投げたあと、もう一度、わたしに視線を戻した。


「おれ、決めたんけ」


〈なにを?〉


やわらかな月明かりが、窓辺を優しく照らしている。


「おれ、腹くくることにしたんけ。もう、決めたんけな」


健ちゃんの目は鋭いほど真っ直ぐで、わたしを射抜いた。


わたしの頭はフル回転しているはずなのに、健ちゃんが言っていることに、ついていけない。


待って、とジェスチャーして、訊いた。


〈腹をくくるって、決めたって、何を?〉


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