恋時雨~恋、ときどき、涙~
あったかい。


大好きな、健ちゃんの匂い。


このまま溶けて、健ちゃんの体の一部になれたら、どんなに幸せなんだろう。


体を離して、健ちゃんは言った。


「おれの未来には、真央がいるんけ」


涙で、大好きな笑顔が霞んで見えた。


「真央が居ない未来は、考えたことねんけ」


おれが描いている未来には、必ず、いつも。


健ちゃんの親指が、わたしの涙をすくう。


「真央がいて、笑ってる」


夜風に、桜が舞い上がる。


「真央なしの未来なんか、いらねんけ」


照れくさそうに笑う健ちゃんの肩越しに、春の月が優しい光を滲ませていた。


桜が、ひらり。


また、ひらり。


月明かりに照らされながら降る花びらは、まるで季節外れの綿雪のようだった。


月夜を優雅に舞う、桜。


わたしと健ちゃんは、小指を結んだ。


約束。


同じ未来を、生きて行こう。


何があっても、ふたりで乗り越えて行こう。


桜の花びらがあまりにも綺麗で、優しくて。


今日なら。


今日なら、どんな願い事だって叶うような気がした。


わたし、健ちゃんの隣に居てもいいですか。


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