恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしには、罰がくだるのだと思う。


こんなわたしを包み込んでくれたあのやわらかなひだまりに雨を降らせてしまったのは、わたしだから。


わたしは、ひだまりのようなあの人を、傷付けてしまった。


「帰ろう。真央」


お母さんに手を引かれて、電車に乗った。


降りた所は王子駅という、優しい空気が漂う街だった。


王子駅を出ると、ティッシュ配りの若いお兄さんがクリアパープル色のビニール傘を差して突っ立っていた。


外は、やわらかな霧雨。


東京は、雨だった。


「さっきは降ってなかったのに。ここで待ってて、そこのコンビニで傘買ってくるから」


誰かについて行ったらダメよ、と、お母さんが雨の中に飛び込んで、数メートル先のコンビニに走って行った。


わたしは涙を堪えて、鼻をつまんだ。


見上げた空は、どんより灰色。


誰かに肩を叩かれて、鼻をつまんだまま見ると、ティッシュ配りのお兄さんだった。


「え、なになに、どうしたの? 鼻血?」


金髪頭に、ダークブルー色のコンタクトレンズ。


おまけにタキシードみたいなスーツ姿。


わたしは鼻をつまんだまま、お兄さんをじっと見つめた。


「これ、使って。鼻に詰めとけばそのうち止まるからさ」


ニッ、と笑ったお兄さんが、わたしにポケットティッシュを束にして差し出す。


「って、え!」


とお兄さんが口を大きく開いた。


「泣くほど止まんない? 鼻血」


わたしはお兄さんの唇を読んでふるふると首を振った。


つまんだままの鼻の奥がつーんとする。


「……てか、大丈夫?」


わたしはまた首を振った。


お兄さんが変な顔をした。


変な子、そう言って、お兄さんはまた向こうに行ってしまった。


だって、しょうがないじゃないか。


大丈夫じゃないけど、我慢するしかないのだから。


でも、我慢するとね、この鼻が伸びるんだ。


健ちゃんがそんな事を言っていた。


わたしは、鼻をつまんだまま、空を見上げた。


ああ、また、鼻が伸びる。
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