捧げられし姫君


まだ知り合って日の浅いファラーシャでも分かる。

イードは、黙って流れに身を任すような性格ではないことが。


「どうせなら、抗ってやろうと思った。

このまま良いように利用されるぐらいなら、出来るところまでやってやろうと」


きっと、それを望んでいた者は少ないのだろう。

傀儡の人形が勝手に動き回ってしまったら、舞台は整わない。


「しかしながら、俺にはこれといって武器になるような後ろ盾もない。

そんな折に、王宮の醜い権力争いに飽きれ、隠居しようとしていた文官がいた。

頭はいいが気難し屋。それでいて青臭いところも持ち合わせた男だ。

俺はまずこいつに声をかけた。力になってくれないか、と。

が、そいつは俺のような子供に何が出来ると突っぱねた」


イードは思い出し笑いをするかのようにほんの少し肩を揺らした。


「仕方がないので、次に俺は武官の頭である大武官に話をつけにいった。

大武官は今時珍しい正義感と忠義心の持ち主で、時に王よりも人望がある。

現に前王亡き後の王宮の混乱に対しても、こいつに倣って武官たちは一切関わらなかったぐらいだ。

俺はそいつに剣での一対一の勝負を申し込んだ。勝ったら俺を王と認める、と。

そして俺は勝負に勝った」


話を止め、イードは小さく表情を変える。


「大武官の名誉のために言っておくと、最初からあいつは王に従う気だったらしい。

まあ、俺も大武官に認められた、と対外にはっきり示せればなんだって良かったんだが。


大武官は、結果的に負けはしたが、万全の状態だったらまず俺には歯が立たない相手だろう」


含みのある言い方だ。

まるで、相手が万全の状態ではなかったかのような。


「…何かしたのね、あなた」


イードは答えず肩をすくめる。

沈黙は、肯定の代わりだ。


「そして俺はもう一度、見る目のない文官の元へ行き、言ってやった。

何もせずに逃げるのか、と」


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