ブラッディ アリス
言いにくそうにしているベルアベスタ侯爵は、アリスと目を合わそうとしない。
指を動かしたり、両手を握り合わせたり、落ち着かない様子だ。
「…侯爵?どうなさいましたの?」
腕と足を組んだ状態で、堂々と侯爵の前に座っているアリス。
「…なぜ…そんなに冷静でいられるんだ…君は…」
額に汗を浮かべながら、低い声で話す侯爵。
「あら?もっと取り乱せとおっしゃいますの?…ふふふ。どういう意味かしら?」
アリスは笑いながら侯爵に問いかける。
「そうは言ってない……。だが…貴族が処刑になったんだ…それを…」
「あなたはどこまで考えが甘い人なのかしら」
笑っていたアリスの顔が、一気に冷めた表情に変わった。
アリスは椅子から立ち上がると、陽が差し込む大きな窓の外を眺める。
「…アベル家当主として、このくらいで動じるわけないでしょう?」
そして、ゆっくりと侯爵のそばに近づいていく。
「だいたい…処刑はあなたがお決めになったこと…」
「違う!あれはシャルルが自ら…」
慌てて立ち上がる侯爵を睨みつけるアリス。
「…そう…ですわね…。『処刑にするなら公開処刑』と言ったのは、夫人ですわ」
アリスの一言に侯爵は青ざめる。
「や…やはりシャルルに聞いたのか?!どこまで!?何を聞いたんだ!!」
蒼白な顔で迫ってくる侯爵に、アリスは2・3歩後ずさる。