へたれンパイア~バイオレンスな生贄~


「じゃあ、姉さん!俺は先にキッチンで待ってるね!!」


「お姉様に相応しい素敵な衣装のセレクトは、全てこのわたくしにお任せください!!」


「……」


正直言って、奴らは絶対に人の話を聞く気なんか無い。



ダダダダ、と廊下を遠ざかって行く二人分の足音を耳にしながら、あたしはぼんやりとした眼で窓の外に目をやった。

外の風景は、相変わらず真っ白で虚無だ。



「……アッシュ…」

そして、数十秒が経過してから、やっと耳に届いたのは、そんな男の呟き。


「……何でもいい」

それに対し、あたしは真剣に取り合うのも億劫で、気怠さを押し隠さずに答えた。



「…ブレイン…ブロロード……アッシュ…」


「……」

そう言ったのが男の本当の名前で、自分の事を「アッシュ」と呼んで欲しいんだと、伝えたがっている事に気付くが……やはり、どうでもいい事だった。


ただ、あいつらが本人の意思を無視して、かなり好き勝手に呼んでいる事だけは分かる。


だからなのか、それ以上、男は何も要求してくる事なく…いつの間にか、部屋にはあたし一人が取り残された。


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