短編集
――『1、2、3で目を閉じて』

いつもはあたしが言っていた、触れ合うまでのカウントダウン。緊張でドキドキして、君の声が鼓動にかき消されていく。

「いち」

どうしてこんなにも不器用なのだろう。もっと上手に彼を愛す方法だってあったはずなのに、あたしはそれを見つけられないまま彼から離れていった。どれだけ傷つけたかも考えないまま、今日までずっと逃げていた。

「に」

彼の右手があたしの左手を握る。汗をかいているのは緊張してるから?君も緊張してるの?じっと見つめれば耳を赤くしながらそっぽを向く彼が、愛しくて愛しくてたまらない。

「……さん」

彼が言う。目を閉じる。懐かしい温もりに包まれて、涙が出た。小さい頃の陳腐な合言葉だって、ちゃんとこの世に存在している。彼とあたしの関係を切らないでいてくれた。

「…おせーんだよ」

彼はずっとそこにいた。
あたしを、待っていてくれたらしい。


『好きになってもいいですか』
『1、2、3で目を閉じて』


★合言葉
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