短編集
君に○○と告げる

好き

下校時刻なんてとっくに過ぎた放課後。

いつもなら家に着いているけれど、僕はまだ学校の校門に1人で立っていた。

春になったといっても、夜になると肌寒い風が吹いて、熱を奪っていく。

その寒さが、嫌いじゃなかった。

『金曜の放課後
校門の前で、待ってる』

君はあの手紙を読んでくれただろうか。


いつものように自然な素振りで君に話しかけて、感情を隠しながら手紙を渡した。

月曜、気だるさが残る朝。

君は目をまぁるくして、それでもすぐに微笑んで、ありがとう、と呟く。

その笑顔に心臓がはねた。


何度も思ったんだ。

君にこの想いを告げることができたら、

君が笑ってくれるなら、

僕はもうなんだってできる、と。

ただ一言、好きだと伝えたい。

それだけが僕の望みだった。


キキッ、と自転車のブレーキの音がした。

振り向くとそこには君がいた。


「……来てくれたんだ…」

僕がそう呟くと、君は哀しい微笑みを浮かべながら、ごめんね、と言う。

私がいなければ貴方は今もいるのに、と。

「…?どういう意味──」


よく意味がわからなかった僕は、俯く君に近づきその濡れた頬に触れようとした。

だけど、それは叶わない。


君に触れる直前、僕は君を通り抜けた。

確かに君に触れたはずなのに、僕は今、君の体を貫通している自分の手を見ている。


君の涙は、まだ、乾かない。


ごめんなさい、本当に、ごめんね…、僕が渡した手紙を握り締めて、泣き続ける君。

戻ってきて、死んだなんて嘘でしょ、君は空を見上げて、泣きながら言う。


僕はここにいるのに。

君の瞳に僕は映らない。

君がいるならなんだってできるのに。

僕は君に触れることすらできない。


「……僕は、死んだのか…」


君に伝えたかったことを云えずに、僕はその一生を終えたのか。


「ねえ、泣かないでよ」


君には届かない。


「──君が、好きだよ」


声は、届かない。




★君に好きと告げる
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