KISS OF LIFE
こう言うのを、袋のねずみと言うのだろうか?

「いやっ…」

今にも泣きそうなくらいのかすれた声を出したあたしに、森藤さんの顔が近くなった。

キスができそうなくらいの至近距離だ。

「俺さ、彩花ちゃんが入社した当時からずっと見てきたの」

森藤さんが言った。

「…えっ?」

そんなの初耳だ。

今言ったから、当たり前なんだけど。

「ずっと、思い続けた。

依存かと思うくらい、ずっとね」

ふと、頭の中に東雲主任の言葉が浮かんだ。

――例えるとするなら、蜘蛛だな

先に罠を仕掛け、相手を誘い込む蜘蛛。

どうやら、あたしはその罠にハマってしまったらしい。

袋のねずみじゃなくて、蜘蛛の巣にかかった蝶。

目の前にいるのは、あたしを罠にはめた蜘蛛。

「けどどうやら、君には相手がいた。

俺の前から、あっさりと彩花ちゃんを奪った男」

それって、淳平のこと?
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