KISS OF LIFE
あたしはムッとなると、
「東雲主任には言われたくないです」

そう言ったあたしに東雲主任は、急に笑い出した。

「ひどいことを言われたもんだな、俺も」

東雲主任は腹を抱えて言った。

「眼鏡割られたいんですか?」

「おや、女の子がそんなことを言ってもいいのかね?」

ああ言えばこう言うのね、この主任は。

これ以上対抗の余地がないあたしは黙った。

「とにかく、嵐が過ぎていないことは確かだよ」

急に真顔になって見つめてきた東雲主任に、
「…えっ?」

あたしはかすれたような声しか出てこない。

「今の出来事は、嵐の前の静けさにしか過ぎない」

「そう、なの…?」

「あんまり浮かれてると、嵐は何を奪って行くかわからないからな」

東雲主任は独り言みたいに言うと、ニタリと眼鏡の奥で笑った。

「まさか」

けど嵐は、東雲主任の言う通りに従うようにすぐそこまできていた。
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