それでも、すき。


「…わかった。」


あたしは
香椎くんが好きだから。

失いたく、ないから。




「――香椎くんを、信じる。」


不安なんかに
負けたりしないんだ。




そう言ったあたしに
香椎くんはニコっと口元を綻ばせた。


「うん。信じて。」


優しく、あたしを抱き寄せながら。



いつもの温もりが、そこにある。

伝わる体温が、あたしを不安の渦から引き寄せる。



でも、手を離せば
すぐにまた、その渦があたしを飲み込もうと迫って来るようで。

そうはさせまい、と
あたしはきつく瞼を閉じてその背中に腕を回した。






……どうか、誰も。

この幸せを奪わないで。



この温もりを
あたしから、さらっていかないで。



どうか、彼だけは―――。







……この時

あたしはまだ、知らなかった。


二人の恋が
脆い氷の上で成り立っていた事も

彼の、揺れるココロも。




あたしは
何も、知らなかった。






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