恋人は専属執事様Ⅱ
連休はあっという間に終わろうとしていた。
今日はこの別荘からお屋敷に戻る日だった。
家族以外の人とこんなに楽しく過ごしたお休みは初めてだった。
夕べは砂浜で花火もやった。
普通の手持ち花火から小さいけど本格的な打ち上げ花火まで、色々あって楽しかった。

「お嬢は全然焼けなかったね」
河野さんに言われて、私は自分の腕を眺めながら
「昔から真っ赤になるだけで直ぐに白くなっちゃうんですよ…折角海に来たのに勿体無いですよね」
と言った。
「あー、お嬢って色素が薄いからじゃないかな?俺なんて調子に乗ってサンオイルまで塗って焼いたから、休み明けが怖いよー!こんなに焼けた執事候補生とかヤバくない?絶対制服が似合わないと思わない?」
と河野さんが笑わせてくれた。
私がデッキチェアで休んでいる間に、みんなはウェットスーツを脱いで水着で泳いだり焼いたりしたみたい。
みんなにも楽しい思い出が出来てると良いな。

「飛行機の準備が整いました」
藤臣さんの一言で、もう本当に帰るんだなぁ…と実感した。
私の表情が翳ったことに気付いた藤臣さんが
「まだ長期休暇は夏休みもございます。最後ではないのですから、そんなお顔をなさらないでください」
と言ってくれたけど……
このメンバーでまた旅行に行くことがないことは、私が一番よく分かっている。
試用期間は夏休み前までだから。
その時が来たら、私はこの中の誰か1人だけを選ばなくてはならないから。
急に実感した現実に、私の心は鉛のように重くなった。

帰りの飛行機では行きの静けさが嘘のように賑やかだった。
同じ飛行機に乗ったみんなが私の席に来てくれたから。
広いベッドの上にみんなで輪になって座り込み、UNOや大貧民で盛り上がった。
常勝の名を欲しいままにする鷹護さんと対照的に、河野さんは何故か連敗し続けていた。
どうやら鷹護さんがいると、条件反射で負けるらしい。
鷹護さんが席を外したゲームでは、負けていたのが嘘のように勝ちまくっていたから。
「負け犬根性が染み付いてんじゃないの?」
と宝井さんがボソッと毒を吐いて、河野さんに頭を叩かれた。

行きは長く感じた時間が、帰りはあっという間だった。
このままずっとみんなと仲良く過ごせれば良いのに……
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