恋人は専属執事様Ⅱ
今日は体育祭。
お天気に恵まれ絶好の体育祭日和だけど、私は極度に緊張してそれどころじゃない。
偶にお祖父さんと夕ご飯を一緒に食べる時よりもドレスアップして、背中にはゼッケンを付けている。
この日の為に毎日遅くまで練習して、ちゃんと踊れるようになったけど、本番は一度だけ。
失敗したらパートナーの鷹護さんに迷惑をかけてしまう……
「まぁ!淑乃さん、とてもドレスがお似合いですわ!」
後ろから突然抱き付かれ、私は心臓が止まるかと思った。
「淑乃さん?」
回り込んで正面に立つ紗羅さんは、ピンクのテニスウェアに身を包み、すごく可愛い。
「あら、淑乃さん…もしかして緊張なさっていらっしゃるの?」
…もしかしなくてもめちゃくちゃ緊張しています……
「聖真学園が誇る美少女がお二人共お揃いで、何をしていらっしゃるのですか?」
振り返ると黒い燕尾服姿の河野さんが立っている。
燕尾服は普段から制服で見慣れている筈なのに、今日は一段と格好良く見える。
「ごきげんよう、河野さん。淑乃さんが緊張して動かないのですの」
紗羅さんがそう言うと、河野さんが
「それは困りましたね。お嬢様、そんなに緊張されては折角のダンスが楽しめませんよ」
と人懐こい笑顔で言った。
楽しむ?ダンスを?
失敗しないようにしなきゃってことしか考えていなかったけど、河野さんの一言で少し楽になった。
「ありがとうございます、河野さん」
漸く私は笑顔になれた。
やっぱり河野さんの笑顔は元気になれる。
時計を見た河野さんが慌てて
「パートナーとの待ち合わせがございますので失礼いたします」
と一礼して去って行く。
入れ替わりで鷹護さんが現れる。
鷹護さんも黒い燕尾服姿で、やっぱり格好良い。
鷹護さんは私を見ると立ち止まり、そのまま無言で私を見ている。
やっぱり似合わないからかなぁ…
こんな大人っぽいドレス、私には似合わないって言ったのに、藤臣さんが用意してくれたから着たけど……
「鷹護さん、いくら淑乃さんが綺麗だからとは言え、見つめすぎですわ。淑乃さんが困っていらっしゃるわ」
なんて紗羅さんが言うから、私は恥ずかしくなって俯いた。
「失礼いたしました。お嬢様、そろそろ参りましょう」
そう言うと、鷹護さんは私の手を取りエスコートしてくれた。
< 42 / 59 >

この作品をシェア

pagetop