嘘つき①【-ハジマリ-】

…な、何でも?


その言葉の意味が掴めないあたしは曖昧に頷く。だって、そんな理解出来ない言葉より、あたしを追い掛けてくれたんだという事実に気付いて更に早まる鼓動。


…後から考えたら『ご飯食べに連れてって下さい』とかその類いの『言う事』なんだろうに。


「ん?」


目の前には相変わらず綺麗な顔の部長。この時のあたしの脳内はおかしな思考でいっぱいだった。


…これは夢なのかな?、そう、疲れてるんだ。
だってあの部長が、こんな事であたしに謝るなんておかしい。冷たい程綺麗な容姿、まるで精密な機械の様に仕事の出来る男。芹沢愁哉。


現実逃避に走った自分は明日責める事になる。


「…部長、冗談がきついです」


「ああ、すまなかった」

「お詫びに、」


「ん?」


「愛人にしてください」


後に聞いたこの時のあたしは、確かに目が据わっていて有無を言わせない迫力があったとかなかったとか。



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