白いかけら
 家に戻り、俺は暖炉の前で膝を抱えていた。
 暖炉の火をにらみながら、俺は彼女との思い出に思いをはせていた。
 彼女は初めてあった時、本当に嬉しそうに笑った。
 その夜に、部屋に来て恥ずかしそうに笑った。
 次の日の朝は、一緒に歌って、雪の上に倒れて訳のわからないままおもしろそうに笑った。
 そして目が見えなくなったのに、泣きながらも俺を安心させようとしたのか笑った。
 夢の中で久しぶりに会った彼女も笑った。
 本当に会ったときは、嬉しそうに泣きじゃくった。
 見えないはずなのに、俺がいるのを見抜いた時も笑っていた。
 死ぬ寸前の時も、彼女は笑っていた。
 彼女は、いつも嬉しそうにしていて、まぶしく笑っていた。
 ふと、暖炉の上に薄いノートが置いてあるのに気がついた。
 立ち上がりそれをとってみると、俺がいつだったか見た彼女の日記だった。
 ノートの表紙を撫で、ゆっくりとページをめくっていく。
 最初から、一文字一文字噛みしめるように読んだ。
 毎日欠かすことなく、些細なことでも書かれていた。
 彼女の、温もりを感じられた。まだ彼女が、生きているような気がした。
 俺は一気に最後まで読んでしまった。
 彼女は、目が見えなくなった後もおぼつかない手つきで毎日書いていた。
 俺は読み終えた後、涙が止まらなかった。
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