白いかけら

お兄ちゃん

 そのとき私はまちの外れに住んでいる『お兄ちゃん』のところで暮らしていた。
 お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんではなくて、幼なじみ。お兄ちゃんみたいな感じだから、お兄ちゃんと呼んでいるの。
 お兄ちゃんはここの世界の人間じゃないっていうんだけど、そんなわけないでしょ。だって、ここには外から人が来たことがないんだから。
 お兄ちゃんは私がいても病気にならなかった。
 私はお兄ちゃんの家にずっといて、外に出ないようにしていた。だから、外がどうなっているのかわからなかった。お兄ちゃんから聞く話では、急激ではないがあの病気で人が死んでいるらしい。この前も、まだ十にもみたない子が亡くなったそうだ。
 お兄ちゃんは午前中はだいたい居間にいて、何か考え事をしていた。そして、午後になると自分の部屋に閉じこもってしまう。
 お兄ちゃんが何してるか気になるけど、覗かないようにしてた。お兄ちゃんにも入らない方がいいって言われたし。
 時々、お兄ちゃんはまちの方に出かけては何かを持って帰ってきて、また部屋に閉じこもる。
 お兄ちゃんがまちに行くときはかなりの確実で誰かが不治の病で亡くなったかかかったかの時だった。
 お兄ちゃんが何をしている人なのか知らないけど、よく誰が病気にかかった、亡くなったと誰かが教えに来る。
 医者なの?と聞いたことがあったが、お兄ちゃんは違うよと悲しそうにほほえんだ。
 お兄ちゃんはいつも、ほほえみを絶やさない人だった。
 だけど、最近は違った。
 ほほえんでいても、どこか疲れているのが見えるし、難しい顔をすることが増えた。
 私が居間でピアノを弾いて歌っていると、部屋から出て来て怒鳴るようになった。
 最初その姿を見たときは驚いた。お兄ちゃんが怒鳴るななんて思っても見なかった。
 お兄ちゃんはよく、私の歌を聴いては「いい歌だね」とか「おちつくよ」って言ってくれたのにあのときはまるで別人のようなことを言った。
「耳障りだ!よくそんな歌が歌えたもんだな!」
私はお兄ちゃんの言っている意味がわからなかった。私はただ、お兄ちゃんに落ち着いてほしかっただけなのに。
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