白いかけら
 再び目を開けたとき、あの夢のような世界にいた。
 今度は、祝福の天気だった。
 私は、走った。走って、どこかへ行かなくてはいけないという、衝動に駆られて。
 走った。走った。
 ふと、私は足を止めた。その理由はよくわからない。
 でも、言わないとと思った。
「さよなら。ラド」
そして私は、また走り出した。
 腕が引っ張られた。彼が、私を抱きしめてくれる。
「ラド」
これがきっと、最期だから、愛しい彼の名を呼びほほえんだ。
 だけど、悲しくて胸が張りさせそうで、涙が出て来ちゃった。
 抱きしめられる前に、私は目を覚ました。
 いや、帰って来たの方が正しいのかもしれない。
 雪の上に私は、横たわっていた。
 見渡すと、見慣れた風景。
 後ろには、お兄ちゃんの小さな家。
 私とラドが暮らした家。
 これが夢じゃないと、私はなぜだか確信があった。
 玄関を入ると、床に座って泣いていた。
 そんな彼を抱きしめる義務が私にある。
 そっと彼を後ろから、抱きしめる。
 見つめる彼に、優しく微笑み返す。
「ウィン。お帰り」
ぎゅっと抱きしめられて、私は少し驚いた。
 まるで大きな子供みたい。
 私も彼を抱きしめ返した。
 私は、生きている。
 独りじゃなくて、二人で生きていく。

< 36 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop