粉雪2-sleeping beauty-
「…なぁ、千里…。
俺さぁ、ちゃんと堅気になれてる…?」


誰も居なくなった店で、隣に千里が腰を下ろしたことを確認し、戸惑いがちに聞いた。



『…やっぱ今日のマツ、何か変だね。』


千里は煙草を咥え、俺を睨む。


『…何があったの?』


「…何か俺、堅気の世界に違和感覚えるんだわ…。
俺には、裏の世界の方が性に合ってる気がする…。」


『―――ッ!』


瞬間、千里の顔色が変わった。


何かを押し殺すように、唇を噛み締めて俯く。



『…戻りたいの?』


それだけ聞かれた。



「…わかんねぇ。」


短く言った。


俺自身、どうしたら良いのかわからない。



『…マツのしたいようにすれば良いよ…。
今まで、あたしの為に我慢してたの、知ってるから…。』


「―――ッ!」


その言葉に、胸が締め付けられそうになる。


“我慢”なんて、していたつもりはない。


だけど、限界なのかもしれない…。



『…あたし、マツと一緒に頑張りたいよ…?
でも、マツの事縛り付けちゃダメだから…。
…マツの…人生だから…。』


「―――ッ!」


やけに明るい夏の歌に、違和感ばかりを覚えた。


不釣合いなほど俺達は、重苦しい空気に包まれている。


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